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薄暮都市

同人・女性向けの話題専用のブログ ジャンルはよろず。遊戯王・DFF・バサラなど。 ときどき、アイマスや東方などの話も混じりますのでご了承の程を。

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  • 11/21/20:52

少年十字軍

マルセル・シュウォップの【少年十字軍】の切ないっぷりがパネェ
そしてシュウォップの作品には天刑病がよく出てくるのだけれども、神話化された天刑病はリアル世界でのアレとは完全なベツモノと化している感じがしてそこがまた良い。
天刑病というのは大谷さんのあの業病のことです。いちばん古い呼び方だとこうなるのね。





 【夭折】

 うつくしく生きるということは、長くは決して生きないということだ。

 ものは皆、毀(こわ)れる。
 人もまた、日々絶え間なく、毀れていく。
 
 うつくしい生き様、というものは、若くしてこの世を去るものだけに許された一種の奇跡だ。
 なぜなら長く長く生きるにつれ、人は皆よごれ、古ぼけ、また毀れ、
 うつくしさ、というものから遠ざかっていくことになっているのだから。

 開口一番、「老けたなァ」と政宗が言う。
「なんだよその腹は。もうちッとSmartに、っつかシャンとするこたあ出来ねえのか、オイ、将軍さまよ」
「…政宗殿はまこと、変わらぬのう」
「まさむねどの、か。オレのほうも呼び捨てって意味でいいんだな?」
「かまわん。今は誰もおらぬからな」
 江戸の町は今、桜の咲くさかり。
 まだ若い町並みは、こうやって土を運び、沼地を埋め立てるよりも前は、ただ葦が風になびいているだけの荒地だった。それを人を集め、土地を埋め立て、家を建て。誰かが植えた桜が伸び、今はこうして花が咲く。
 壮年の男がふたり、高台からそのさまを見下ろしている。高杯にはあられ、杯には白酒。久しぶりに会った友だと思うけれど、いまさらつもる話という年でもない。ただ黙って春の町を見下ろしていると、やわらかな風が杯の表をかすかにさざめかせる。
「桜もいい加減、見飽きたな」
 隻眼の男が、つぶやいた。もう一人の男が不思議そうな顔をするのをみて、隻眼の男は笑い、わざとらしく指を折ってみせる。
「自分の年を数えてみろよ、って話だ。one yearに桜は一回。この年にもなれば、そりゃ飽きても来るっつー話だろ」
 you see?
 懐かしいあの調子で言う彼に、男はようやく理解をした様子だった。苦笑をこぼす。杯を口に運ぶ。
「そうだな。……そうか。長生きをするということは、桜も見飽きるということか」
「せいぜいが10yearsやそこらじゃ、飽きるとこまで行きゃしなかったかもしれねぇけどな」
「……」
 誰のことを言っているのか、すぐにも分かる。
「そうだな。ましてや、若いころには桜を見ている余裕なども、ろくにありもしなかった」
「I think so…….」
 目を閉じると、まぶたのうらをかすめる、はるか過去の面影。
 時が流れると哀しく、そして、心が安らぐ。痛みも後悔も時間の中で風化し、最後に残るものはただ懐かしいもの、優しいものばかりだ。
「守信が、よお」
 隻眼の男は、膝に頬杖をつき、訥々と呟く。
「オレが仙台を発つ前に、江戸に花見に行ってくるって言ったら、生意気にこう答えやがってよ」
「ふむ?」
「『いくら戦の世が終わったとはいえ、徳川殿は天下に名だたる武将にござる。その前に御座ろうという自分に花見と申されるとは、お館様はあまりに暢気に過ぎまする!』…だとよ」
 男は思わず、妙な顔になってしまう。隻眼の男はニヤリと笑った。
「で、そのあとには某もお館様と共に江戸へ参りまする、御身をお守りいたしまする、だのなんだのって大騒ぎだ」
「それは… また…」
「いやあ、笑った笑った。守信の野郎、あれでもう一人前のつもりなんだぜ。いつ元服したと思ってんだよ」
 ひとしきり笑うと、隻眼の男は、こう、付け加える。
「あれじゃ桜なんてろくに目に入っちゃいねえだろうよ。あれが、若さ、なんだろうな」

 片倉小十郎の養子であり、片倉家の次男である片倉守信。
 彼が真田源二郎幸村の忘れ形見であるということは、彼の義父も含め、ほんのわずかな人間しか知らない事実だ。
 大阪夏の陣の後、西軍に属していた武将の多くは、その名が広くに知られ、武勇が名高いものであればあるほど、きわめて厳しい処遇を受けた。日本一の兵、との呼び名すら受けた真田幸村もまた、当然例外では無かった。真田の家の男子は皆殺された。
 例外はただひとり守信だけ、独眼竜とその右目が全身全霊を持って庇いとおした守信以外には、もうこの地上には、『真田幸村』の面影を残す者は存在しない。
 
 隻眼の男の横顔を眺めながら、もう一人の男は思いだす。
 守信… 大八を見つけ出し、そして守り通そうとしたこの男の、妄念とも言って良いほどの執着を。
 文字通り、独眼竜は、己のすべてをかけて、『真田幸村』の忘れ形見を守り通そうとしたのだ。
 名を変えさせ、姿を隠し、ついには『死んだ』という嘘までついて。その様子はそれこそ、掌中の珠を奪われまいと、全身の鱗を逆立てた竜の姿にすら似ていた。あのころの独眼竜は、たったひとりの幼子を守るためなら、どんなことでもしただろう。おのれの誇りと民のためだけに生きているはずのこの男が、自分の血を引いているわけですらない、家すら断絶された子どものために。

「……守信どのは、息災なようだな」
「Yes, だが、あのやかましいのはどうにかならねえかと毎日思ってるぜ。黙って座って一時間そのままにしてろなんて命令したら、ストレスで死ぬんじゃねえか、あいつ?」
「つまり幸村どのに生き写しか」
 男がいうと、隻眼の男は黙る。
 こちらを見る目。男は笑う。笑うしかない。他になにがある。杯をかたむけ、あられをつまんだ。遠くかすみのようにけぶる、さくら、さくら。
「……悪ィ」
「うん、なにがだ?」
「オレは、アンタよりも恵まれてる」
「……」

 追憶の中で薄れていく面影。
 手元に残されたものは無い。何も無い。思い出すよすがすらもないのなら、この記憶が薄れてしまえば、残された最後の絆すらもなくなるだろう。

「なァ、家康。この国は富んだ。アンタはとんでもなく偉いやつだ」
「なんじゃ、珍しい。何か土産でもねだる気か?」
「笑えねえよ。冗談にもなってねえ。…なあ家康、アンタはいつになったら許される気だ?」
 男は、黙った。
「アンタは、泣かせた人間の何十倍もの人間を、幸せにした。戦の無い平和な世の中で、まともな人間が真面目に働きゃ飯が食えて、家族と一生一緒に暮らせる国を作ったんだ。何百年も続く平穏な世だ」
「何百年は大げさだぞ、政宗殿」
「真面目に言ってんだよ。……アンタがこれから幸せにする人間の数は、今までよりも多いだろうよ。そんだけのことをやったんだ。それでも」
 それでさえも。
「まだ、足りないのか?」
 男は何かを言いかけた。
 途中で口をつぐんだ。
 目を閉じて、顔を上げる。白くなりかけた鬢の毛を、やわらかい風がなでる。
 あたたかな春の空気。遠くかすむ桜の気配。

 記憶の中に、ひとつの姿がある。
 研ぎ上げられて銀の刃のような、もう、仔細を思い出すことの出来ない、後姿がある。

「足りない、のだろうな」
「……家康」
「あいつにとっては、どれだけ多くの民を幸せにしたところで、償いになどはならぬのだろうよ。償いとしての価値があるのはこのワシの首一つ。さもなくば、ワシの不幸と後悔だけだ」
「……」
「政宗殿。ワシはな、間違いなく不幸ではあるが、これでも満足はしているのだ。こうやってワシが己を許さんでいれば、それがあやつとの絆になる。そうやってワシの中にあやつを残すことが出来る」
 隻眼の男に向かい、笑いかける。
 隻眼の男は何かを言いかけ、途中で黙り、そして、大きなため息をついた。ぐしゃぐしゃと頭を掻き毟る。その様子をもう一人の男は、にこにこと眺めている。
「天下人じゃなかったら、ブン殴ってるところだったぜ」
「はは、ならば、将軍というのもそう悪くはないな」
「お互い、老いぼれたな、家康」
「……そうだな、政宗どの」

 時は日々すこしづつ、すべてを毀していく。
 人は日々すこしつづ、かすれ、くたびれ、薄汚れていく。

 うつくしい生き様を全うすることが出来るのは、若いまま、この世を去るものだけだ。

「家康」
 隻眼の男は、政宗は、問いかける。
「お前にとって、石田三成は、どんな男だった?」
 もう一人の男は、家康は、しずかに目を閉じる。
「もう、何も思い出せぬ。仔細はなにも覚えておらんよ。ただあいつは、ただ潔い、真っ直ぐな……」

 うつくしい男だったよ―――



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通り魔スターさんのプレイ動画の三成はマジ美しい。
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