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口唇性愛的エロス
なんていうんですか、こういうのを言う新しい言葉もあるらしいんですが、どういう言葉なのかよくわかんないなぁ。
人間の体の中で一番えろくてはしたない部分はおくちであると思います。だって、おかしくないですか? 人間の粘膜のなかで何の防備もなくむき出しになっていて許される部分は口だけです。鼻だってそうだけどあそこはそもそも閉ざせる機能が無い。目と口はそういう意味だと粘膜としてはるけれども、本来、非接触機能しかもってない上に「まぶた」というもので防護されてる目とちがって、自分の意思で開いたり閉じたり、中から逆にものをもとめたりするお口というものはとてもはしたない。えろいのです。
千鳥したりする(意味は澁澤でも読んでください)のはまあ当たり前として、ふつーに振舞っててもモノを食べてるところって意外とヒワイだよなという話です。たとえば果物。果物はたいていとてもえろいものですが、特に桃、あとはぶどう、さらにはちょっと変えると桑の実とか、がえろいと思う。
うっすらとうぶ毛におおわれた桃になめらかにナイフを入れて果肉をきりわけ、指までしとどに濡らす汁の胸が悪くなりそうなくらいのあまったるい香り。テーブルに置いたナイフの柄まで果汁でぬれている。フォークで刺して上品にいただいてもいいけれど、肌理の細かすぎる桃の果肉は、クリームのような不定形のものを食べるのとは違う歯ざわりを伝えてくる。かすかな歯ざわりと口の中に広がる甘い味。白くてほのかに紅がかった果肉の色が、ふいに、目の前で桃を剥いてくれたこの人の膚の色と似ている、と急に思い当たる。
真新しい小さな粒のそろった葡萄は、藍色のひとつぶひとつぶに白い粉を履いて、まるで有機質じゃない何かでつくられた工芸品みたいに見える。でも、見ているだけじゃ仕方が無いから粒をつまんで引っ張ると、ぷつん、とかすかに抵抗を感じる。指先に転がす藍色のぶどうの一粒。
軽く歯先をあてて、く、と押すと、薄い薄い皮が抵抗するのが分かる。でも力を込めてゆくとやがて皮が抵抗しきれなくなってぷつりと破れ、見た目から想像するよりもずっと甘い味が口の中いっぱいにひろがる。下の中にちいさな種と皮だけが残ってこれで終わり。種をしばらく口内で転がして歯で玩びながら頬杖をつく。待ち人来たらず。早くしてくれないかなぁ? 葡萄がなくなっちゃうよ?
桑の実が熟するのは暑い時分。喉がかわいているけど水道も見つからなくて、いいものがあった、といわれて見たら桑の葉影に黒い桑の実がいっぱいに実っている。
指先ほどの木の実には毛が生えていてぶつぶつしてて、あんまり、おいしそうには思えない。木陰にはまだたくさんの桑の実が成っていて熟しきらない黄色い実やほんのり赤く染まりかけた実。何も気にせず洗いもせずに口に放り込んでいる姿を見ている。だんだん、もっとたくさんの桑の実がほしくって、背伸びをして手を伸ばす。枝がゆれる。僕は見とれる。君の白いシャツの上に、葉の重なり合いごしにおちてくる日光が、レースみたいな模様にゆれている。
「なんだよ?」 ふりかえる君が、いつもみたいにニッと笑う。でも桑の実の食べすぎで染まったのかその口元が妙に赤くて、まるで、はじめて唇を引いてみた女の子が、罪悪感にかられて慌ててそれをぬぐった後みたい。ついてるよ、というと手でこする。手まで真っ赤になる。「しかたないか」と屈託なく答える。
食べてみろよ、といわれて、初めて桑の実を口にする。口の中でかんたんに押しつぶされてしまうもろい木の実は、けれど、太陽と熱とをいっぱいに吸い込んで、甘く、青臭く、そして、酸っぱい味がする。
…あれ、なんで描写練習になってるんだろう…
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